幸せな
牛の時代
今まで日本では価値が無いとされてきたブラウンスイス種の赤身肉が注目されています。脂が少なくあっさり、それでいてうま味が豊かだと評価されているのです。私たちはそんなブラウンスイスや、ブラウンスイスと黒毛和牛を掛け合わせた牛を半放牧で育てています。想像を超えて美味しいそのお肉は、現在流通している牛肉の基準では測ることができませんが、きっとあなたにも素晴らしい驚きを与えることでしょう。
知ってもらいたいのは、牛たちがいかに自由にのびのびと育ってきたかということ。呼べば寄って来るような、性格が優しくかわいい牛たちを肉にすることは、大きな悲しみも伴います。それでも「生きている間は、どんな高値の肉牛よりも健康に育てる」という信念をつらぬいて飼育しています。
幸せな牛の時代がきっと来る
乳牛も肉牛も、経済動物であることは否めません。それでも経済が求める形に、命ある動物たちを無理やりあてはめる育て方にはどうしても賛同できません。命をいただくその瞬間まで大事に、健康に生きてほしいのです。
幸せに生きた牛のお肉が評価され、命の尊さを深く感じながらお肉をいただく人が増えることで、幸せな牛がもっと増える。肉質のためだけに不健康に育てられる牛が減り、「幸せな牛の時代」がきっと来る、私たちはそう信じています。
気仙沼本吉の地で
魚のまち気仙沼の、農業が盛んな地域
明治30年代に搾乳・牛乳販売が行われていたと記録されている本吉町では、かつては畜産が町の農業の3分の1を占め、精肉用牛の市場もあったそうです。昭和23年には東北で初めて酪農業協同組合が創立され、1970年代には100軒を超える酪農家があって「乳の流れる町」とも言われたそうですが、今はほんの数軒になりました。
そんな歴史ある本吉の地に残った畜産家たちが、いまグラスフェッドや林間放牧にチャレンジしています。土地の力と動物を結び付ける試みです。
小野寺家
本吉で牛を飼って3代目
農業を営んでいた祖父は、その傍らで2頭ほどの牛を飼っていました。農家で農耕牛を飼うのは当たり前のことでした。
父の代で専業の酪農家になり、今はホルスタイン25頭とブラウンスイス5頭を飼育しています。そのほか、地域にある「モーランド」という牛の保育施設のような放牧地に育成を委託している牛が8頭います。
酪農家は牛を家族のように思っています。自分(小野寺佑友)はここで牛と一緒に育ったので、牛に対して兄弟姉妹のような、我が子のような感覚を持っています。
自家産の牛、長命連産型
7産する牛も健やかに
乳牛には3頭ほどの牛を産ませ、3周期搾乳をしたら肉用に出荷する、というのが多くの酪農家のやり方だと思います。産数が増えるほど病気のリスクが高まり、妊娠しづらくなったり、生まれてくる牛の能力が低くなるとされているから。だからこそ3周期の間にできる限りの乳量を求めるのです。
小野寺家では、多いと7産する牛もいますが、みな健やかに生きています。乳量を求めるための過度な餌やりをせず、自由に放牧し、一頭一頭長く飼育しているのです。
ももの親はトライ。トライの親はがん子。がん子の親はアンディ。アンディの親はつの子というように後継牛をつないでいます。受精卵移植はせず、かわいい牛たちの遺伝子を残していきたいのです。
進めていること、目指すこと
輸入飼料を減らしたい
酪農でも、肉牛の飼育でも、牧草が育つ間は放牧し、また牧草を刈り取って飼料を確保します。地域で収穫されるホールクロップサイレージ(米ができる前の稲を丸ごと収穫して発酵させたもの)も活用しています。輸入に頼っている配合飼料(トウモロコシ、脱脂大豆、綿実)の使用率を下げ、国産飼料100%での飼育を目指しています。
地域資源の活用
地域の耕作放棄地を借りてデントコーンを栽培し、飼料にしています。また様々な地域資源に着目し、未利用な素材、そこで発生する素材をアップサイクルして飼料にしたいとも考えています。
幸せに育てた牛の「お肉」をお届けしたい
「規格・基準を満たす牛肉」を作り出すための肥育ではなく、生きている時間を健康に、そして幸せに育てる。そして大切な命を意識していただく。そんな牛と人との関係を作っていきたい。
きたろうプロジェクト
一緒に生きた動物を食べる試練
ブラウンスイスと黒毛和牛を掛け合わせた「きたろう」は、お肉にすると決めた上で幸せに育てました。我が子のようにかわいがり、そしてその命を奪ってお肉をいただく。その矛盾を乗り越え、その悲しみを痛感し、その感謝を感じ取るために、30ヶ月の大切な時間を過ごしました。
「スーパーで買うお肉は冷たいけど、きたろうは温かい。」
大きくて人間よりも力強い動物を、ナイフとフォークで食べてしまえること。お肉を食べるということは命をいただくこと。そんなことをゆっくりと、深く考えながら。
幸せな牛の肉
すべての部分に感謝を
写真は枝肉を部位ごとに大きく切り分けていく作業。肉全量を切り分けるには2日かかりました。切り分けたてを試食した時、本来は死後硬直で硬いはずのそのお肉は、とても柔らかでした。
「幸せに育った牛のお肉が美味しくないわけがない。」
それでも一抹の不安はありました。その不安が霧散し、きたろうに感謝した瞬間でした。誤解を恐れずに言えば、それは、今までかいだことのない香り、味わったことがない味でした。美味しくて良かった。ありがとう。万感の思いで頭を下げました。
涙が止まらなかった。でも美味しくて嬉しかった。
小野寺佑友
牛は一頭一頭性格が違っていて、明るい子もいれば、頑固なやつもいます。酪農家に育った自分にとって、牛は家族みたいなものだから「みんなかわいい」それは当たり前のことでした。
でも肉牛はどうでしょうか?酪農家とは違う世界がそこにはありました。もちろん世の中にはいろいろな基準がありますので、違うことをとやかく言うつもりはありません。でも少なくとも自分にとっては「牛が幸せに育っているか、健康でいるか?」ということは何よりも大切です。
せっかくこの世に生まれた命を奪い、お肉としていただくからこそ、牛が「モノ」ではなく「生き物」として扱われたかどうかが重要だと思うのです。
初めて精肉用として育てた「きたろう」は牧草と穀物で630kgに育ち、290kgのお肉になりました。屠畜場に見送った後は茫然として、何も考えられなくなり、すべての動物のお肉を食べたくないとも思いました。でもそれでは「きたろう」は浮かばれない。そう自分に言い聞かせて食べたお肉は、涙が止まらないほど美味しかった。美味しかったことで自分は救われました。
映画で世界一になったステーキとは?
20ヶ国、200を超えるステーキハウスと畜産家を巡って世界一のステーキを決める「ステーキ・レボリューション」というドキュメンタリー映画があります。そこで世界一に輝いたのは、10年を超えて飼育するスペインの畜産家の牛でした。映画の中で語られていたのは、「人生と同じで良くなるには年月がかかる」「気高く、おとなしい性格の牛ほど美味い」「幸せに育った牛がいちばん」ということ。そういう牛の肉には綺麗にサシが入るらしいのです。
今の私たちに、お肉の基準を細かく説明できる知識や経験はありませんが、この映画は「酪農家として、乳牛の育て方と肉牛の育て方を無理に変えることは無いんだ」と思わせてくれました。
ストレスなく伸び伸びと、家族のように愛情をこめて育てた牛。その濃い旨味をぜひ味わっていただきたい。
「きたろう」に寄せられた声
気仙沼のイタリアンレストランCORVOにて
シェフの声
「グリルで焼いた時に、立ち昇る香りが違う。とても香ばしく、美味しいのがわかる濃い香り。」
「 普段は仙台牛を扱っているが遜色ない。お肉自体の旨味が強い。」
「脂の部分にもしっかり味があり、そしてくどくない。ふつう牛脂は食べるものではないと思っていたが。」
お客様の声
パスタで実食:「お肉の味がしっかりある。味の余韻があるのでワインに合う。」
牛脂入りハンバーグで実食:「ハンバーグのレベルが上がる。脂の質のせいか、焼けた香りが良い。」
赤ワイン煮で実食:「赤みがホロホロと軟らかい。脂身やスジにも旨味とコクがある。」「むしろスジが美味しい。」「嫌なにおいがまったくない。」
Happy Beef 商品
放牧できない寒い季節は牛舎に入れ、牧草だけでなく配合飼料も与えて大切に育てました。
草の上が大好きで、人懐っこく、名前を呼ぶと寄って来る本当にかわいい牛たちでした。
Happy Beef
ブラウンスイス(牝牛未経産牛・60ヶ月)
グラスフェッド
ブラウンスイスは、ヨーロッパ原産の乳肉兼用種。肉のうま味は黒毛和牛と同等程度とされています。赤身なのに柔らかく、クセがありません。また牝牛は雄牛よりも肉質がきめ細かいとされています。
気仙沼本吉地区にある「モ~ランド本吉」という山あいの広い牧場で、牧草のみで伸び伸びと3年間育て、最後の2年を小野寺家で育てました。
Happy Beef
ブラウンスイス✕黒毛和牛(雄牛・30ヶ月)
グラス&グレインフェッド
ブラウンスイスと黒毛和牛と掛け合わせたことで、うま味が凝縮されて濃い味わいになっています。
初めて産後から育てた「きたろう」のHappy Beefです。彼を育てるのは本当に楽しく、送り出す日には大きな喪失感がありました。多くの人に愛されて幸せに育った牛が醸し出す深いうま味を確かめてください。
幸せに育てられた牛の「乳」をお届けしたい
酪農家にとって牛は家族。色々な要素に目を向け、思い思いに運動させたり、餌の量や種類を変えたりしながら、その牛にとっての健康バランスを探しています。ゆくゆくは乳製品を直接販売できたらと考えています。
餌の試行錯誤
自分たちで育てた飼料だけで育てたい
小野寺家は、乳牛の育て方も独特だと思います。輸入の粗飼料は使わず、自家産の牧草100%。牧草地は化学肥料体制から循環式の堆肥還元体制へと時間をかけて変えているところです。
地域の耕作放棄地を借り受けて堆肥循環の畑作を行い、そこで育てたデントコーンも使います。少しずつ耕作地を拡大して、十分な量が確保できるようになりました。南三陸米のホールクロップサイレージ(米が出来る前の稲を丸ごと収穫して発酵させたもの)も導入しています。
また町の豆腐屋さんからいただいた「おから粕」も与えており、いつかは輸入ゼロ、地域資源のみで飼料を賄いたいと考えています。
走り回るホルスタイン
800キロの身体ではしゃぐ
夏の間は毎日放牧地に出していますが、暑いせいなのか、中には「今日も外に行くの?」と嫌悪感を表す牛もいます。牛によっては道を散歩させるのですが、気分によっては全く動かなくなってしまったり。
寒い季節は、たまに晴れた日だけに外に出します。すると牛たちは興奮状態になります。土に顔を擦り付け、転がる牛もいます。「牛ってこんなに早く走れるんだ!」と驚くほどの勢いで走り回るのですが、800キロの巨体が猛スピードで迫って来るとさすがに圧巻です。映画「ステーキ・レボリューション」でも、10歳で2トンの雄牛が楽しそうに走っていました。
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